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第18話 高橋レン(緑)の秘密②

last update Last Updated: 2025-03-05 19:15:14

「……は?」

穂香のまぬけな声を無視して、レンは「ああ、言えた……やはり、そうか……」とつぶやく。

「現実の私は、常に監視されていて、自分や未来にかかわることをあなたに伝えられない状態だったのです。言おうとすると、一時停止がかかり、内容を修正されます」

「は、え?」

レンの表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。

「今、私達が閉じ込められているこの世界は、現実世界に恋愛ゲーム要素を被せてつくられたもので、現実に影響を及ぼすことができる高度な仮想空間です」

ぽかんと口を開けている穂香をよそに、レンは説明を続ける。

「あなたは、この仮想空間で選ばれた相手から必ず告白されないといけません」

「ど、どうして?」

レンの話を聞いていると、穂香達が恋愛ゲームに紛れ込んでしまったのではなく、まるで穂香のためにその仮想空間が作られたように聞こえる。

「それは穂香さんがこのままでは、人類滅亡のきっかけを作ってしまうからです」

レンの話がぶっ飛びすぎていて、穂香はもう何も言えなかった。

「私が住んでいる時代――あなたからすると遥か遠い未来の世界は、あと数百年ほどで、人類が滅亡します」

「いや、ちょっと待って……」

レンは教室の壁にかかっている時計を見ると「もう目覚める時間のようですね。思っていたより短いな」とため息をついた。

「穂香さん」

レンの緑色の瞳がまっすぐ穂香を見つめている。

「私を信じることができますか?」

*

聞きなれた目覚まし時計の音で、穂香は目が覚めた。

【10月9日(土)朝自室】

夢の中でレンがとんでもないことを言っていたような気がする。

(私が原因で、人類が滅亡する……とか、なんとか?)

意味が分からないので、今すぐレンを質問攻めにしたいところだが、レンは監視されていて夢の中以外では、真実を話せないと言っていた。

「とりあえず、学校に」

いつもなら、ベッドから下りたら風景が変わり通学路を歩いているのに変わらない。

(あっそっか、今日は土曜日だから学校がないんだ)

部屋の中にいても仕方がないので、穂香は私服に着替えて玄関に向かった。姿が見えない母の声が聞こえる。

「今日は早起きね。どこかに行くの?」

「ちょっとレンに会ってくる」

家から出た穂香は、隣のレンの家ではなく、別の方向に歩き出した。

(頭が混乱しているから、レンに会う前に整理しないと。まず、
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    穴織の姿が見えなくなると、風景が変わる。【同日 夜/自室】(あれ? 次の日まで飛ぶかと思ったら、まだ夜だ。ということは、何かイベントが起こるかも?)しかし、もう夜も遅いので、涼はもちろんのこと、サポートキャラのレンもいない。(私は何をしたらいいの?)部屋の中を見渡すと、机の上におまじないの紙を見つけた。(これ、前に使ったやつだ。おまじないは、この紙を学校のどこかに埋めたら終わりって涼くんが言ってたっけ)ということは、このおまじないは、まだ終わっていないということ。(もしかして……)穂香は使用済みのおまじないの紙を枕の下にもう一度入れた。ベッドに入り、目をつぶるとすぐに意識がまどろんでいく。*【夢の中】教室に、白い制服を着た涼が立っていた。それは、昨日見た夢とまったく同じ光景だった。(やっぱり! このおまじない、まだ終わってなかったんだ!)長い赤髪が風に揺れている。光る武器を持ち佇む涼は、穂香に気がついていない。『来たのか、娘よ。確か名は穂香じゃったかの?』「はい。えっと、あなたは涼くんのおじいさん、ですよね?」『まぁ、そんなものじゃな。おぬしには、特別に【おじいちゃん♡】と呼ばせてやろう』冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず穂香は「あ、ありがとうございます」と返した。「じゃあ、おじいちゃん。涼くんは、どうしたんですか?」

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    「穴織くん、いらっしゃい。ど、どうぞ」「……お邪魔します」脱いだ靴を綺麗にそろえるところに、穴織の育ちの良さがうかがえる。 「私の部屋は2階で……」「あの、白川さん。今、部屋の中に、レンレンがいたような気がしてんけど?」「あ、うん。ちょうど遊びに来ていて……」穴織は「白川さんの、その発言が嘘じゃないことに驚くわ」とため息をついた。「と、言うと?」「だって、白川さんは今日、学校を早退したんやで? 俺も今、抜けてきたところやし…。レンレンがここにおるの、おかしくない?」穴織に嘘はつけない。穂香は本当のことを言うしかなかった。「そのことだけどレンは、登校したら私達が校門で話していて怪しかったから、今日は学校を休んだって言っていて……」「ふーん」こちらに向けられた探るような眼差しがつらい。「わ、私の部屋はこっちだよ」部屋に案内すると、部屋の中からレンが良い笑顔で手を振った。「穴織くん、いらっしゃい」「うぉい!? 白川さんの部屋やのに、自分の部屋のごとく、めっちゃくつろいでるやん!?」穴織からのツッコミを、レンは「穂香さんとは、幼馴染ですので」の一言で片づける。穂香も「本当にレンは、ただの幼馴染で……」と伝えると、穴織に「分かっとる、分かっとるけど……幼馴染って、こんな距離感が普通なん?」ともっともな質問をされてしまった。「さ、さぁ?」

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   《09番外編》もし、穴織と恋愛していたら⑧

    穴織は「ところで……」と咳払いをする。「さっきも聞いたけど、白川さんは見えないものが見えるだけじゃなくて、ジジィの声も聞こえてるねんな?」探るような視線を向けられた穂香は、素直に「うん」とうなずいた。「え? マジで?」サァと穴織の顔から血の気が引いていく。「俺、なんか変なこと言ってなかった?」「ううん、言ってないよ。でも、穴織くんって何者なの? 嘘が分かるっていってたよね?その『ジジィ?』さんも……」穴織が「あ、あー……」と言いながら困ったように頭をかいた。「うん、まぁ、全部は話されへんけど、話せるところは話すわ。でも、ちょっと待ってほしい。今は、この学校で起こってることを調べなアカンから……」「分かった。私は帰ったほうがいいかな?」「うん、そのほうが助かる! あとで電話するわ」明るい笑顔で手をふる穴織に、穂香が手を振り返すと風景が変わった。【同日 昼/自室】(あっ、学校から家の自室まで飛ばされてる)レンが「おかえりなさい」と微笑んだ。「穂香さん、今日は早かったですね。学校を早退してきたんですか?」「うん。今、学校でおかしなことが起こっていて。って……レンはどうしてここにいるの!?」「登校したら、校門であなたと穴織くんがバラがどうとか言っているのを聞いて、何かヤバそうだなと思い、即、帰宅しました」「……そこは、私のために『サポートしてやるか』的な流れにはならないんだね」

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